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色とりどりの木材を組み合わせて作る伝統工芸で、繊細な模様がうつくしい寄木細工。箱根には、そんな寄木細工に触れられる工房やショップが点在しています。今回は、初心者でも簡単にできる寄木細工のコースター作りを体験。木の温もりに癒されながら、世界にひとつしかない自分だけの作品を作ってみませんか。
日本が誇る伝統工芸の1つである箱根寄木細工。染色や塗装を施しているわけではなく、木材そのものの自然な色合いを活かして組み合わせる幾何学模様が特徴です。古くから、箱根の山々にはさまざまな種類や色の樹木が茂っていました。華やかな色合いの箱根寄木細工は、宿場町や観光地としての賑わいとともに発展してきました。
箱根には、箱根寄木細工を体験できる工房やショップが点在しています。『本間寄木美術館』には、作品を鑑賞できる美術館やショップのほか、体験教室も併設。電話予約をすれば寄木コースター作り体験ができます(2名から)。現役の職人が丁寧に教えてくれるので、初心者でも安心。大人と一緒なら未就学児も体験に参加できるので、家族連れにもおすすめです。
なお、日によって体験の予約が埋まっている場合も。そんな時のために、ショップには持ち帰り用の体験キットも用意されています。
まずは、約10種類から作りたいデザインを選びます。明るく柔らかい印象のもの、グリーンが映えて爽やかな雰囲気のもの、キリッとかっこいいものなど、個性的なデザインがそろいます。(種類は随時追加・変更されているため、体験するタイミングによって製作できるデザインが画像とは異なる場合もあります)
オプションパーツとして、焼印パーツ(1個100円/税込)を入れることができます。目をひく「温泉マーク」や、富士山と「箱根神社」の鳥居が印象的な「芦ノ湖」が人気なのだとか。焼印パーツを購入すると、体験キットのパーツが1つ余りますが、これは持ち帰りOK。また、持ち帰らずに返却すると、ちょっとしたプレゼントがもらえるかも!
まずはデザイン決め。12個のパーツを自由に組み合わせて、六角形を作ります。この色はどこに配置するのがおしゃれかな、焼印はこっちに入れようかなと、パズルのようにあれこれ試行錯誤する時間も楽しいものです。壁に貼られた完成見本はなるべく見ずに、自分の思うままにデザインを考えることが、オリジナリティのある作品を作るポイントなのだそうです。
デザインが決まったら、接着剤でパーツ同士をくっつけていきます。接着剤はパーツからはみ出るくらいたっぷりと塗るのがコツ。接着剤を塗り終えたら、パーツ間の隙間がなくなるように前後左右から押し、形を整えます。一方向から力をかけて押すとパーツがずれてしまうため、6つの辺からまんべんなく、程よい力で押すのがポイント。シンプルながら難しい作業です。形を整えたら、輪ゴムをかけてサイドを固定します。
表面の接着剤をタオルで拭き取ったら、表面を素手でこすります。これは、摩擦熱によって寄木の表面を乾燥させるため。はじめはしっとりとしていた表面も、こすっていくうちにサラりとした質感になっていきます。
表面が乾いたら、紙やすりを使って表面やサイドを磨きましょう。やすりをかけていくうちに表面の段差がとれ、一枚板のような滑らかな触り心地になります。「もっとツルツルにしたい!」と手に力が入ります。
仕上げに、ミツロウワックスを塗ります。やすりがけで真っ白になった寄木の表面にワックスを塗り込むと、模様がくっきりと浮かび上がります。
裏表とサイドにワックスを塗り込んだら、コースターの完成!1時間ほどで簡単に、かわいいコースターができました。木の温もりに癒されながら製作する時間は、まるで子どもの頃に熱中した工作のよう。童心に帰って楽しんでみては。
はじめに選んだデザインの種類が同じでも、パーツの組み合わせによって完成デザインのバリエーションは広がります。シンメトリーや顔のように見えるデザインなど、12個のパーツの組み合わせ次第で、個性豊かな仕上がりに。一緒に訪れた仲間と出来栄えを比べたり、感想を言い合えば盛り上がります。
今回は特別に、寄木細工の作り方や種類について教えてもらいました。箱根寄木細工には大きく2種類あり、貼り(ヅク)寄木とムク寄木と呼ばれています。
職人は、小さな部材(パーツ)をパズルのように組み合わせていき、大きなブロック(種板)を作ります。これを鉋(カンナ)で薄く削り「ヅク」と呼ばれる紙のようなパーツが完成。この「ヅク」を小箱などに貼ったものを「ヅクもの」と言います。
「ムク寄木」は、木工ろくろを使い、ブロックを直接削って仕上げられたもの。小物入れや食器、花瓶など、曲線のあるアイテムも自在に作ることができます。
箱根寄木細工を教えてくれたのは、有限会社本間木工所の代表取締役をつとめる、伝統工芸士の本間博丈さん。『本間寄木美術館』と同じ敷地内にある工房では、本間さんをはじめとする職人が作品を製作する様子を窓越しに見られることも。箱根寄木細工に携わる職人は30〜40名ほど(小田原箱根伝統寄木協同組合に所属する工房数から推測した人数)と少なく、職人の技が間近で見られる貴重な機会です。
体験の後には、隣接する美術館へ。90歳を超えても現役で活躍する伝統工芸士・本間昇さんが国内外から収集した約200点の寄木細工が展示されています。緻密な技術を使って作られた飾り棚やたんす、人形などは美しく思わず声をあげてしまうほど。古い作品だけでなく、本間昇さんがオリジナルでデザインした模様の作品もあります。ロシアの民芸品・マトリョーシカの起源とされる「箱根七福神」も発見。寄木細工の歴史を深く知れば、旅がもっと面白くなるはずです。(※通常は美術館内での写真・動画撮影はできません)
ショップでは、職人が手がけた小物やアクセサリーがずらりと並んでいます。人気の「こだま」は、まんまるなフォルムが愛らしい市松模様の小物入れ。インテリア雑貨としてもおしゃれです。コースターやストラップ、箸置きなども豊富にラインアップされています。贈る人の顔を思い浮かべながら、デザインを選ぶのも楽しいひとときです。また、体験で使用したコースター製作キットはショップでも購入可能。ショップだけの限定柄もあります。
SPOT本間寄木美術館
箱根には寄木細工を使ったおしゃれなアイテムや、楽しい体験ができる施設がたくさん。ここからは、個性豊かなショップや工房、美術館をご紹介します。
芦ノ湖のほとり、箱根海賊船 箱根町港のそばに位置するショップ『寄木 うちはら』。3年前にリニューアルオープンした店内は明るい雰囲気で、訪れる人々を温かく迎え入れます。ゆったりと過ごしてほしいという思いから、ひと休みできるベンチや、お子さま連れにもうれしいキッズスペースを設置。広々とした空間で、ベビーカーや車椅子の方でも安心して買い物ができます。また、1階は抱っこやカートに乗せていればワンちゃんも入店OK。箱根海賊船の乗船前後に、家族みんなで買い物を楽しんではいかがでしょうか。
取り揃えるのは、20年来の付き合いという30〜40代の若手職人が手がけた箱根寄木細工作品。『寄木 うちはら』でデザインを行い、職人が製作したオリジナル商品も多数ラインアップされています。コーヒー豆の模様が散りばめられたコーヒートレーは人気のアイテム。滑り止め加工が施されており使い勝手もバツグンです。女性職人が手掛けるリボンのヘアゴムもおすすめ。派手すぎず温かみのあるデザインで、コーディネートや年代を問わず使えます。イヤリングやブローチは、軽くて付け心地が良いと評判でリピーターも多いのだそうです。
ラインアップはどんどん入れ替わるため、どんなアイテムに出会えるかは来店してからのお楽しみ。木製ならではの可愛らしさや機能性を備えた逸品にきっと出会えるはずです。
SPOT寄木 うちはら
「箱根関所」のそばにあり、芦ノ湖からもほど近い『箱根丸山物産 本店』は、箱根寄木細工の専門店。正しい手順通りに動かさないと開閉できないパズルのような「秘密箱」や、回したり振ったりして遊ぶ「からくり箱」をはじめ、小物や食器、アクセサリーなどを購入できます。伝統的なデザインだけでなく、ハート型のからくり箱(くるくるハート)など、常識にとらわれない現代らしいアイテムも多く、インテリア雑貨としても飾って楽しめます。
また、さまざまな箱根寄木細工体験をほとんどの営業日で実施。「秘密箱」は40分、コースターは1時間と、短い時間で作ることができるので、観光や食事の合間にぴったりです。箱根登山電車型の貯金箱が作れる体験コースも人気です。買い物や体験の前後には、隣接する「箱根からくり美術館」もぜひ訪れてみて。秘密箱やからくり箱を手に取ることができます。その精巧な作りに感動するとともに、夢中になって遊べること間違いなし。令和6(2024)年3月からは、箱根寄木細工とプロジェクションマッピングを組み合わせた体験型コンテンツをスタート。どんな体験ができるかは訪れてからのお楽しみ。”動く箱根寄木細工”を味わってみてはいかがでしょうか。
SPOT箱根丸山物産 本店
箱根寄木細工発祥の地として知られる畑宿(はたじゅく)エリアにたたずむ『金指ウッドクラフト 直売店』。箱根駅伝の優勝トロフィーなども手がける工房です。1日3回開催される「寄木体験教室」では、ひし形28個(4色×7)・三角形12個(1色×12)を使ったオリジナルコースターを作ることができます。自由自在にパーツを組み合わせ、六角形のデザインからカメやパンダ、ネコ、ウサギといったユニークな形のコースターを作れるのが魅力です。小さなお子さまでも取り組みやすいように、あらかじめ組み合わせたパーツも用意されています。
体験教室の後は、箱根駅伝の往路優勝校に贈られるトロフィーをはじめ、熟練の職人が手がけた精巧な作品が展示されています。人気の「りんごの器」や「ぐい呑み」は、自分や大切な人へのお土産におすすめ。美しい箱根寄木細工の繊細な技術と美しさに感動することでしょう。
令和5(2023)年には、令和4(2022)年に亡くなった職人・金指勝悦氏の記念館がオープン。金指氏が製作してきた作品や長年愛用していた道具が展示されており、無料で見学することができます。金指氏の作品や仕事を支えた道具を通じて、箱根寄木細工の深い歴史と技術の粋を感じることができる貴重な機会です。
SPOT金指ウッドクラフト 直売店
※2024年5月22日時点の情報です。
箱根滞在中に位置情報を利用し、
周辺にあるスポットを見つけることができます。